トレーニング理論

代償動作

関節の可動域が狭い場合、身体は他の関節を必要以上に動かして動作を遂行しようとします。これを「代償動作」と言います。
代償動作は別の関節に繰り返し負荷をかけ、痛みや障害を起こす原因となってしまいます。では代償動作とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

腕を真上に上げる時、正常な肩関節の可動域は180度でしたが、この可動域が失われていると肩以外の関節、特に腰の代償動作で動きをカバーしてしまうことが多いです。試しに腕を真上ではなく斜め上、およそ150度くらいに上げてみましょう。それ以上肩は動かさずに腕を真上に向けるにはどうしたらいいでしょうか?
代わりに腰を反って身体を後ろに倒してみましょう。すると腕は真上に上がったように見えますが、これは肩関節の動きだけでなく、背骨の腰の部分にあたる腰椎を過剰に反らして動作を代償しています。腕を真上に上げるという目的は達成していますが、そのために動いている関節、働いている筋肉の割合はまったく変わってしまいます。
日常生活の中でも、家事や仕事で物を高く上げたりすることが多い人は知らず知らずのうちに腰を何度も反ってしまっているかもしれません。またトレーニングやヨガでも代償動作はよく見られます。ショルダープレスというダンベルを真上に上げるトレーニングでも肩の可動域が狭いと腰を反ってしまいがちです。ヨガのポーズも腕を高く上げることが多いですが、きれいに上げられているように見えてももしかしたら何度も腰に負担をかけてしまっているのかもしれません。

次にまっすぐ立った姿勢で、両手を腰のやや下にある骨、骨盤にあててみましょう。そのまま後ろを振り向くように身体をひねってみると、押さえている骨盤も一緒に回っているのがわかると思います。これは骨盤と太ももの骨である大腿骨をつなぐ股関節が動いているからであり、左右の股関節がそれぞれ内旋または外旋という動作を起こしています。
ではもう一度正面を向き、今度は骨盤を動かさないように後ろを振り向いてみましょう。首や腰のあたりがつらくなってくると思います。これは股関節が動かない代わりに頸椎や腰椎といった背骨の他の部分が動作を代償して、後ろを向くという目的を果たそうとしています。
これはゴルフや野球など、回旋動作を伴うスポーツにもよく見られます。股関節が硬くなってしまったことで腰椎を過剰に回旋してしまい、その結果として腰を痛めてしまいます。

痛みの原因となってしまう代償動作ですが、どうしたら防ぐことができるでしょうか。
普段から腰を反らないように、ひねらないようにと思っていても身体は目的の動作を果たすことを優先してしまうので無意識のうちに代償動作は行われてしまいます。なのでまずは別の関節が動く必要がないように、各関節を柔らかくすることが重要になってきます。身体が硬い状態では正しい動作をする準備ができていないということなので、正常な関節可動域を獲得することが誰にも基本であるということです。
そして正常な可動域を獲得した後でも、身体は代償動作を覚えています。いわゆる身体に癖がついてしまっているので、正しい動作を学習していかなければいけません。そのあたりはまた解説していきたいと思いますが、以上のことを踏まえてトレーニングでも可動域など身体の状態のチェックや改善、筋肉だけでなく動作をトレーニングしていくことも大切であると言えます。痛みや動作不良の原因がどこにあるか、広い視点で考えると問題点が見えてくるかもしれません。

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