トレーニング理論 身体について

有酸素運動(LSD)①

有酸素運動と聞いて思い浮かべるランニングやウォーキング、これらはいくつかに分けられる有酸素運動の一種で、Long Slow Distance(LSD)と呼ばれます。
これは、その名の通り「長くゆっくり距離を走る」トレーニングのことで、基礎的でありながら多くの効果が得られる運動の一つです。

LSDはどなたにでもおすすめされる運動ですが、以下ではその効果をご紹介していきたいと思います。

■左心室(心臓)の機能向上
心臓はその構造上四つの部屋に分けられますが、左心室はその内の一つで、全身に血液を送る役割を担っています。
筋肉と同様、心臓は加齢とともに弱くなってしまいますが、反対にトレーニングによって鍛えることも可能です。

では、心臓はトレーニングによってどう鍛えられていくのでしょうか。
トレーニングをすると筋肉が太くなるように、心臓も与える負荷によって成長(肥大)を起こします。

左心室にはその形態上、「短縮性肥大」と「伸張性肥大」といった成長の特徴があります。

短縮性肥大とは、左心室が内側に大きくなっていくことで、部屋の壁がどんどん厚くなっていくような状態です。

内側に肥大していくと、左心室の収縮力は強くなる反面、血液を多く溜める量ができません。
その結果、一度に押し出す力は強くても、送り出せる血液の量(血液拍出量)は低下してしまいます。
また、短縮性肥大は心臓の規則的な動きも低下させる恐れがあり、動悸やめまい、不整脈などを引き起こす原因にもなり得ます。

反対に、伸張性肥大というのは左心室が外側に大きく成長していくことで、部屋の容量が広がった分、血液を多く溜めることができます。(血液拍出量の増加)

さらに伸張性肥大は心臓の内圧や規則的な動きを維持する働きも持っていますので、心臓の健康を保つためにはこの短縮性肥大と伸張性肥大のバランスをうまく取ることが重要と言われています。

では、どのようなトレーニングが左心室の成長(肥大)に影響を与えるのでしょうか。

まず、短縮性肥大を起こすトレーニングには、ウエイトトレーニングやサーキットトレーニング、インターバルトレーニングなど強度が高く、激しく息が上がるような運動が挙げられます。(胸腔内圧が高く筋の緊張も起きている状態→心臓は内側に肥大してすぐに血液を送れるようになっていく)

一方、伸張性肥大を起こすトレーニングはウォーキングやジョギング、サイクリングなど初めにお伝えしたLSDと呼ばれるような有酸素運動が効果的になります。

前者の高強度トレーニングのみ行っている場合、心臓の短縮性肥大のリスクが高くなるとともに、安静時の心拍数増加、交感神経系の優位な働きといった反応も起こってきます。
そのような状態では、疲労の回復や気持ちのリラックスなど身体を休める能力が落ち、トレーニングの質も低下してしまいます。

そのため、上記のようなハードなトレーニングを続けている人、またはアスリートにしてもコンディショニングを整えるといった点で有酸素運動(LSD)は不可欠だと考えられるでしょう。

ですが、仮に有酸素運動だけしかトレーニングを行わない場合、左心室の収縮力は高まらず、これもバランスの良い鍛え方とは言えません。
高強度のエクササイズと緩やかな有酸素運動を適切に組み合わせることが、心臓の機能を高める理想的なトレーニング方法ではないでしょうか。

■中枢神経系(脳)への血液供給および機能の向上
続いて、中枢神経系への効果をお伝えします。

有酸素運動についてのある研究では、有酸素運動を継続しているグループはしていないグループに比べて、認知機能が大きく改善したという結果が出ています。

これは有酸素運動が脳に与える効果も高いことを示し、それには以下の要因などが影響していると考えられます。

・酸素を豊富に含む血液を脳に供給する
→有酸素運動をすることで血液の循環が良くなり、脳が働くための酸素を十分に送ることができる

・脳由来神経栄養因子(BDNF)と毛細血管の増加
→BDNFとは記憶や認知機能など脳の神経細胞の成長に重要な栄養源であり、有酸素運動によってこのBDNFとそれを運ぶ毛細血管も増加する

・グリア細胞の形成が促進される
→脳の神経細胞と、その働きを手助けするグリア細胞との神経ネットワークが構築されやすくなる

・神経系の伝達速度が向上する
→有酸素運動をするとセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が発生し、これらはモチベーションや集中力、意思決定といった脳の働きを高める

こういった効果を見てみると、有酸素運動が脳にとっても良い影響を与えることがわかります。

ここで言う有酸素運動というのも息が軽く弾むくらいの強度、つまりLSDのことであり、難しい運動は必要ありません。

有酸素運動と脳の関連性は高く、2015年にはDr.Marcoraによって「ブレイン・エンデュランス・トレーニング」という訓練法が提唱されました。

これは、運動中に認知的タスクを加えるというもので、走ったりしながら出された文字を読む、質問に答えるなど頭を使いながらトレーニングを行っていくというものです。

このトレーニング方法では、単純な運動よりも有酸素能力や認知機能が向上したという結果が得られています。

なので同じ有酸素運動でも、時にはダンスやエアロビクスなど考えながら身体を動かすトレーニングを取り入れてみるのもおすすめです。

脳機能をきちんと保つためにも、ご自身に合った運動からぜひ始めてみてください。

ここまで心臓、脳への効果をまとめていきましたが、次回は身体(フィジカル)に与える効果もお伝えしたいと思います。

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