身体について

慢性痛と感覚

腰痛の種類は原因のはっきりした特異的腰痛とそれ以外の非特異的腰痛に分けられますが、腰だけに限らず痛みにはそもそも急性痛と慢性痛というものがあります。
急性痛は痛みの原因が特定できるもの、腰でいえばヘルニアや脊柱管狭窄症のように確実に診断できるケースでしたが、その他にも単純な切り傷や捻挫、骨折など身体の組織・物質的な損傷(器質的損傷)を伴う痛み全てが当てはまります。

急性痛は傷や怪我の回復とともに痛みも消えていきますが、治療期間を超えても残る痛み、もしくは初めから原因を特定できずに続く痛みのことを慢性痛と呼びます。
痛みのきっかけは器質的なものであっても、損傷部位が回復した後も痛みが続くことがあります。それは激しい急性痛によるストレスや不安、回復した後もなんとなく痛みが続いているように感じる精神的な要因と、痛みが動作や感覚機能に変化をもたらし更なる痛みの原因となる場合があります。

腰痛についてのお話でも触れましたが、姿勢と痛みの関連性は高く、姿勢不良は痛みの原因となるというものでした。
反対に痛みも感覚機能や動作制御、つまりは姿勢に不具合を生じさせます。中枢神経は痛みの箇所を実際の範囲よりも大きく認識しており、周辺の感覚機能にも変化が起きてしまいます。感覚機能は動きや姿勢のコントロールに影響を与えるので、痛みが原因となって動作や姿勢にもエラーが生じ、また別の痛みを発生させる悪循環に陥ってしまうのです。

この慢性的な悪循環を断つためには、動作制御に関係する感覚機能を改善することが大切になってきます。
脳は不確かな刺激に対しての防御反応として痛みをアウトプットするので、なるべく多くの動作や感覚が正常に認知できる状態にあることが望ましいです。
痛みの研究の第一人者で、オーストラリアの大学教授でもあるロリマー・モズリー氏は、「痛みとは身体を守るためにデザインされた脳からの出力である」と述べています。
また、モズリー氏は慢性的な痛みを抱えている人の特徴として、「深部感覚活動の低下(Lower proprioceptive activity)」「認知感覚の大きさの乱れ(Disruptions in the perceived size)」「身体部位のつながりのずれ(Malalignment of body parts)」「精神的要因から痛みのある部位を動かす能力の低下(Show poor ability to mentally maneuver the painful body part)」を挙げています。
やはり身体感覚や動作イメージが痛みと密接に関連していると言えるのではないでしょうか。

身体感覚を取り戻すためには様々な運動や活動が良い刺激となります。さらに深部の感覚を改善するために、関節一つ一つの動きを認識させることが効果的です。ゆっくりと関節を動かすことでぼやけていた感覚が研ぎ澄まされ、正しい動作やポジションを新しく覚えなおしていきます。
痛みの原因となっていた動作や姿勢、もしくは痛みによって生じた動作や姿勢を作り変えることが、痛みのない生活を送る重要なポイントだと思えます。
それに加えて精神的な要素も忘れないようにしましょう。痛みがあるから危険、動けないと痛みありきで考えてしまわず、痛みのない範囲でなにができるか、または痛みのことを忘れていられる時間があるかなど痛みに対してポジティブな考えが持てるようになると活動の幅も広がっていきます。
慢性的な痛みが仕方のないものと捉えずに、自分自身の身体と気持ちに向き合って痛みの解消に一歩ずつ進んでいきましょう。

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